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大分地方裁判所 昭和28年(タ)10号 判決 1956年4月10日

主文

原告と被告とを離婚する。

被告は原告に対し金六十万円を支払うこと。

原被告間の三女加代子、四女富子、五女八重子の親権者を被告と定める。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第二項中金三十万円の支払を命ずる部分は金十万円の担保をたてれば仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

一、真正に成立したものと認むべき甲第十六号証及び原告本人の供述により、成立を認める甲第六号証に原告本人の供述を綜合すれば、被告は大正三年安本喜一郎の養子となり、昭和七年養父の死亡によりその家督を相続したこと、原告は喜一郎の懇望により大正十四年未だ高等女学校二年在学中被告と婚姻の内祝言を行い、同校卒業と同時に事実上の婚姻生活に這入り、昭和四年八月二十六日正式の届出を了し、爾来家業たる農業に従事してきたこと、原被告はその間に既に死亡した長男、長女、二女の外二男稔(昭和九年三月十九日生)、三女加代子(昭和十九年一月十四日生)、四女富子(昭和二十二年五月十七日生)、五女八重子(昭和二十四年十月十日生)の子女を得たことが認められる。

真正に成立したものと認める甲第一号証、証人安本義夫、安本キヨの各証言により成立を認むべき甲第三第四号証並びに証人藤原久男、安本義夫、安本キヨ、安本稔、本田郷参、安部久治、小松勝義及び原被告本人(被告はその一部)の供述に前出甲第六号証を併せ考えると、被告は昭和十二年頃より情婦を作り、昭和二十二年情婦に別府市で喫茶店を経営させるようになつてからは漸次家業を怠り家庭を留守にして外泊勝となり後には次第に昂じて巨額の借財を作つて金銭を浪費し、殆んど家事及び家庭を放擲するに至つた。従つて妻たる原告に対する愛情の念は早くも消失し、時に帰宅しては事毎に言懸りをつけて乱暴を働き、之を見かねた二男悦治とも屡々口論格闘を為す等その家庭生活は全く破綻に瀕した。しかし乍ら原告はかくの如き悲惨な境遇に良く堪え忍び、多くの子女を養育すると同時に漸く成人した二男稔と共に農業に従事し家計を維持して来たのであるが、被告は偶々昭和二十七年十二月十四日知人の酒間における放言を軽信し原告と被告の実弟との間に醜関係あるものと邪推して原告を激しく殴打する等の暴行を加え、原告は身を以てその場を逃れ附近の実姉安本キヨ方に避難した。かくして原告は最早到底夫婦生活を継続し得ないものと決意し昭和二十八年一月二十日大分家庭裁判所に離婚の調停を申立てたが、遂に不調に終つた。ことを認めることができる。右認定に反する証人吉岩又市、梅村金夫、綾目堅吉及び被告本人の供述は措信しない。被告は被告が情婦を持つたのは原告が病弱であつたため双方了解の上定めた旨を主張するけれども、この点に関する被告本人の供述は証人粟篤吉(第一、二回)及び原告本人の供述に比照したやすく措信し難く、他に右事実を認むるに足る証拠はない。

以上の認定事実によれば被告の行為は正に民法所定の不貞行為に該り且被告の責に帰すべき行為に因り婚姻を継続することができない重大な事由が存在するものと認むべきであるから原告の本件離婚の請求は之を認容しなければならない。

二、次に原告が若くして被告に嫁し、爾来約三十年間妻として多数の子女の養育に努め、原告の不行跡にも拘らず家業たる農業に従事し、良く一家の支柱として精励して来たことは前段認定したところであり、原告が既に年令四十を超えて別段の資産及び生活技能も持たず、現在別府市にある実兄方に寄食していることは原告本人の供述により明かである。而して真正に成立したものと認むべき甲第七乃至第十五号証第十七号証の一乃至五乙第一号証の一乃至三十二並びに証人安田悦治及び原被告本人の供述に鑑定の結果を綜合すれば原告は本訴提起当時たる昭和二十八年頃には主として養父の遺産より成る田畑山林原野宅地家屋等時価約四百万円の不動産を所有していたが、その後債権者の抵当権実行により一部不動産を競売せられ、また自暴自棄的な気持からした無分別な売買贈与を交えて相当数を処分したけれども現在尚時価約三百万円に近い不動産を保有しており、他面百数十万円の負債をも負担していること、被告は現在生業として七、八反の田畑を耕作していることが認められる。以上の如き事情を勘案すれば本件離婚に基き被告より原告に分与さるべき財産は金三十万円が相当であると思料する。

三、更に原告が前に説明したような事情に因り離婚の止むなきに至り、之がため精神上多大の苦痛を蒙つたことは明かであり、被告は之を慰藉すべき義務を有するが、その慰藉料の額は叙上認定の事実に照し金三十万円を相当と認める。そうすれば原告の慰藉料の支払を求める本訴請求は右限度に於て正当であるが、その余の請求は失当として棄却すべきである。

四、尚原被告の離婚後における主文掲記の未成年者たる三児の親権者は前記原被告の資産、生活状況に三児が現在被告に愛撫せられて生活していること(このことは被告本人の供述により窺うことができる)を綜合して被告に定めるのが至当である。

よつて民事訴訟法第九十二条第百九十六条(離婚訴訟による財産分与は判決の確定により具体的に確定する性質のものであるから財産分与を命ずる部分については仮執行の宣言をつけない)に則り主文の如く判決する。

(裁判官 江崎弥)

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